近年、ビジネス環境の変化に伴い、人事部門の役割は急速に拡大している。かつては労務管理や給与計算、勤怠管理などの“管理型人事”が主流であったが、現在では戦略的な視点を持つ“経営に資する人事”が求められるようになっている。
企業における人材の多様化や価値観の変化、働き方改革、メンタルヘルス対策、リスキリングの必要性など、多くの課題が同時進行する中、人事は単なるサポート部門ではなく、経営戦略に深く関与する存在として注目されている。
採用活動から人材育成、評価制度の構築、さらには組織改革に至るまで、企業の未来を左右する多くの場面で人事部門が中心的な役割を担っている。こうした背景から、人事担当者には高度で多面的な資質が強く求められている。
採用業務に必要な「洞察力」と「発信力」
採用は、人事業務の中でも最も企業の将来に直結する重要なプロセスのひとつである。単に応募者を集めて選考を行うだけでなく、「自社に合う人材を見極め、選び抜く」という判断力が求められる。これには、職務に必要なスキルや経験の見極めはもちろん、価値観や人柄といった定性的な要素を読み取る“洞察力”が不可欠である。
また、優秀な人材の確保には、企業の魅力を的確に伝える“発信力”も求められる。採用市場は売り手優位となっている状況が多く、企業側が「選ばれる側」としての自覚を持ち、ブランディング戦略の一環として採用広報を行う必要がある。SNSや採用ページ、会社説明会などを通じて、自社の理念や働き方、社員の声を届ける情報発信力が、採用成功のカギとなる。
さらに、候補者との面接においては、信頼関係を築く対話力も求められる。一方的な評価ではなく、候補者が安心して自分の考えを話せるような雰囲気づくりができるかどうかが、優秀な人材の惹きつけにつながる。
社員の成長を支える「共感力」と「傾聴力」
採用した人材を活かし、長く働いてもらうためには、入社後のフォローや育成が重要である。特に、近年注目される“エンゲージメント”の向上において、人事担当者の「共感力」と「傾聴力」が大きな役割を果たす。
共感力とは、社員の気持ちや立場に寄り添い、相手の視点で物事を捉える力である。年齢や価値観の異なる社員同士が協働する現代の職場において、多様性を受け入れる姿勢は欠かせない。人事が率先して共感的な対応を取ることで、心理的安全性の高い職場環境が築かれる。
加えて、傾聴力も重要な資質のひとつである。日々の面談や相談対応において、ただ話を聞くだけではなく、相手の真意を引き出し、本音を汲み取る力が必要とされる。社員が感じている課題や不満を早期に察知し、必要なサポートにつなげることが離職防止や人材定着に直結する。
また、キャリア支援においても、社員一人ひとりの将来像や希望に耳を傾け、的確なアドバイスや研修機会を提供することが求められる。人事は“人の可能性を引き出す役割”であるという認識が必要である。
組織改革を推進する「論理的思考」と「変革志向」
企業の持続的成長を実現するためには、定期的な組織の見直しや制度改革が必要となる。こうした組織改革の場面において、人事部門には「論理的思考」と「変革志向」が強く求められる。
論理的思考とは、課題を正確に把握し、原因を構造的に分析し、解決策を導き出す力である。人事データやエンゲージメントサーベイの結果を活用し、離職率や評価の偏り、部門間のコミュニケーション課題などを数値と事実に基づいて捉えることが求められる。主観や慣例に頼らず、客観的かつ合理的に課題を特定できる人事は、経営層からの信頼も得やすい。
さらに、現状に満足せず、変革を推進する意欲や姿勢も重要である。変革志向を持つ人事担当者は、経営陣と対等に議論し、従来の制度にとらわれず新しい働き方や人事制度を提案・導入することができる。たとえば、フレックスタイム制度やリモートワーク導入、人事評価制度の見直しといった改革は、人事の変革マインドなしには実現しない。
変化の激しい時代においては、柔軟かつ先見的に動ける人事が、組織全体を牽引する存在となる。
人事が企業の未来を創る存在になるために
人事に求められる資質は、単なる事務的なスキルにとどまらず、経営視点・人間理解・改革推進力など、多岐にわたる。これらは生まれ持った才能ではなく、日々の業務や経験を通じて磨かれるものである。現場の声を聴き、トレンドを学び、他部署と連携する中で、資質は少しずつ育っていく。
また、人事は「信頼」が何よりも重要な資産となる部門である。社員から信頼され、経営陣からも頼られる存在となるには、公正な判断と一貫性を持ち、人に誠実であることが求められる。
企業がどれだけ魅力的な制度や戦略を掲げたとしても、それを運用し、組織に浸透させるのは人事の力である。人事部門が主体的に企業文化をつくり、人を活かし、組織を成長させる。そんなビジョンを持つことが、これからの時代における人事担当者の使命といえるだろう。
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